当事者主権

『当事者主権』」発刊に寄せて JIL代表 中西正司

自立生活センターは、福祉業界の中では、ここ5、6年、知らない人は少なくなってきたが、一般社会の中ではまだまだ知られていない。自立生活運動が達成してきたことは他の患者団体、女性団体など、当事者団体の中でもモデルになるような組織運営方法、行政を動かす具体的な戦略、戦術などがあり、このことを社会の中で共有していくことが必要であるということを、「JIL将来委員会」という今後の十年の運動をどのように進めていくかを検討する会議を開いたおり、参加してくださった社会学者の上野千鶴子さんと話し合いの中で気づかされた。

JILの果たしてきたことは、重度障害者が自信を持って地域で介助を受けながら暮らすことができ、移動し、社会参加することが出来るような街であり、社会であった。これらの目標がほぼ達成された今、知的障害者や精神障害者にもこれらのサービスが享受されるように、そして我々が、未だに変えることが出来ない教育や就労の面での差別や偏見を取り除いていくことが次の目標となる。

これらの目標を達成させるためには従来、自立生活センターが行ってきた手法では足らないとつねづね感じており、一般市民の幅広い理解を得ることが次の目標達成の鍵と考えた。その第一歩として、「当事者エンパワメント・ネットワーク」による全国十箇所連続シンポジウムがあり、そこで説明しきれない部分をもっとも広く国民に読まれる出版メディアである岩波新書として発表出来ることは夢であった。

特に、介護保険への障害者の組み込みが声高くマスコミで訴えられている中で、障害と高齢は異なるニーズを持ち、自立の理念でも全く異なること、さらに障害当事者がこの三十年間築き上げてきた地域で暮らしていけるだけのサービス供給実態を国民に伝え、そして支援費制度という我々が理想として掲げてきたダイレクトペイメントやセルフマネジドケアを可能にするシステムを高齢者とともに共有化していくという道筋を国民に理解してもらうことが今どうしても必要だと考え、この本の執筆を思い立った。

いつも革新的な論文を書かれる上野千鶴子さんしか、このような大胆なチャレンジを受け入れてくれる人はいないと思い、将来委員会の委員として、参加をお願いしたところ快諾されたばかりか、執筆、出版についても、あくまでもサポートに回る形で当事者支援をしていただいたことに、深く感謝している。本書がきっと社会を変えるきっかけになると私も上野さんも楽観的に信じている。

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発行 当事者主権(岩波書店) 中西正司・上野千鶴子著
定価 700円
サイズ 単行本
備考