Making the Active Wheelchair
To Enhance Independent Living Movement

in Pakistan



パキスタン自立生活運動促進のための
アクティブ車椅子(AW)プロジェクト
報告書
【最終版】
2007年8月14日

主催:SAKURAGIS(パキスタン)
www.sakuragis.com
協力:マイルストン/ライフILセンター(パキスタン)
   後援:全国自立生活センター協議会/パキスタン地震緊急救援基金

報告者: SAKURAGIS技術開発部主任
ムハンマド・ハビブ・ウル・ラーマン


 0.プロジェクト概要
 1.プロジェクト報告
 2.成果
 3.車いす配布対象者について
   3-1.プロフィール詳細
   3-2.障害についての考え方
 
4.支援基金の活用状況
 5.今後の計画
 6.まとめ



 0.プロジェクト概要


 サクラGISは全国自立センター協議会(以下、JIL:Japan Council on Independent Living Centers)のサポートを受け、アクティブ車いす(以下、AW:Active Wheelchair)試行事業を成功のうちに完了した。(2006年7月終了 報告はこちら

 次なるプロジェクトとして、マイルストンとライフ自立生活(以下、IL)センターの推薦と試行事業の対象者の協力をうけ、パキスタン国内で新たに100名へ車いすを提供した。パキスタン地震緊急救援基金の200万円2006年8月31日、9月27日送金分)を資金に今回のプロジェクトを実施した。

 この報告は、新たに車いすを手にした人びとのプロフィール、車いすユーザー/次世代リーダーとしての自立生活運動(以下、IL運動)への考えをまとめたものである。

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 1.プロジェクト報告

 JIL、マイルストン、ライフILセンター、試行事業対象者の協力のもと、サクラGISはパキスタン国内各地でIL運動のリーダー発掘を続けるために車いすの増産を計画した。この計画は、パキスタンでIL運動を広め、障害のある人に車いすの有用性を気づいてもらうことを目的としている。

 IL運動への参加と各地域での団体の立ち上げを期待し、リハビリ施設の子どもたちと地域で活動している障害のある人たちからリクエストフォームで情報を集め、車いすを提供した。


 リハビリ施設の子どもたちへちょうどよいサイズの車いすをつくるために体の各部分を丁寧に計測し、ニーズ調査をおこなった。これらの結果はすべてデータ化し、2006年9月1日から車いす配布計画ははじまった。

 また、それぞれの地域で、障害者分野で積極的に活動している障害のある人たち100名以上へ車いすを配布した。

 

 車いすを受け取った人びとは、それぞれの地元で精力的に活動を展開するようになった。障害のある人たちのサポートに熱心に取り組み、いまやたくさんの新しいILセンターができた。さらには、どのセンターでもIL運動の理念を共有できるよう、パキスタンILセンター協議会(PCIL)が立ち上がった。サクラGISは、今後はPCILを通じてこれらのセンターや障害のある人たちをサポートしていく。

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 2.成果

・パキスタンILセンター協議会(PCIL)の設立
・新規CIL立ち上げ支援によるパキスタンIL運動の促進
・PCILのネットワーク強化
・AW普及による障害のある人の社会的地位の向上
・車いすを利用することへの抵抗が社会から消えつつある
・障害のある人が自分自身のニーズを自覚するようになった
・障害者のニーズに応じた、よりよい品質の車いすの作製
障害当事者との協同によるアクティブ車いす製作技術向上研修
パキスタン各地でのIL運動及び新規CIL設立促進に向けたリーダーの発掘、育成


パキスタンのIL運動とパキスタン自立生活センター協議会
 パキスタンのIL運動は、大きく日本の影響を受けた。日本で研修を受けたリーダーたちによって、パキスタンで初めてライフILセンターが設立した。今、全国で12のILセンターがある。各センターのリーダーたちはプロジェクトで中心的な役割を担った。センターの名称とリーダーの名前は次のとおりだ。

1. LIFE Center of Independent Living Mohammad Shafiq-ur-Rehman
2. Neham Center of Independent Living Mohammad Akmal
3. Capital Center of Independent Living Abia Akram
4. Mansehra Center of Independent Living Atif Raza
5. Battagram Center of Independent Living Ziyarat Khan
6. Muzaffarabad Center of Independent Living Fawad Butt
7. Bagh Center of Independent Living Ms. Khalida
8. Multan Center of Independent Living Dr. Wasim Asif, Nadir khan
9. Imaan Center of Independent Living Wasif Islam
10. Islamabad Center of Independent Living Asim Zafar
11. Karachi Center of Independent Living Javed Rais
12. Mardan Center of Independent Living Asad Ullah

 これらのセンターはパキスタン自立生活センター協議会(PCIL)に加盟している。PCILは、パキスタンのILセンターのネットワーク組織であり、自立生活の基本理念を広めることを主な目的としている。加盟センターはPCILの基本理念のもと積極的に活動を展開している。

 

 セミナー、ワークショップ、シンポジウム、各種プログラムの開催を通じて、障害のある仲間を各地域で集めている。わたしたちは、各センターを訪問し、活動へ一緒に参加し、車いすを渡してきた。センターでは、外部の世界から切り離され必要なサポートが受けられることを知らない重度障害者を見つけだそうとしています。このようなわたしたちのプロジェクトはとても有効な結果を生み出している。PCILが目指す活動理念は4つある。

1. バリアフリー社会

2. 統合教育

3. E-アクセシビリティ

4. 障害者による障害者のための政府機関
 パキスタンでは全人口の約1割を障害者が占めているためPCILのネットワークをパキスタン全土へ広げることが求められる。ネットワークを強化し、運動へ命を吹き込むには、適切なガイダンスとリソースの供給が必要だ。そして運動に携わる人たちの意識を高めることが大変重要になってくる。


 
記者会見


PCILとILセンターの活動:

 協議を行い、セミナー、シンポジウム、キャンペーンに取り組むことになった。
 
ムルターン(Multan)での活動


全国キャンペーンのデモに参加する人々
 
国際障害者デーのデモ ラフォール(Lahore)にて


IL運動を多くの人に知ってもらうためのキャンペーン
 
イスラマバード(Islamabad)のデモ


自らの意思で自立生活をはじめる 新しい生活スタイル
 
12月3日 イスラマバード(Isalamabad)
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 3.車いすを配布対象者について


 私たちの目的は、パキスタンでAWの提供を通じてIL運動を広めていくことだ。対象者にはニーズにもとづいた調査をおこない、障害者へ対する考え方や次世代リーダーとしてIL運動へ取り組む意識を明らかにした。

対象者のプロフィールは次のとおり:

  3-1.プロフィール詳細

  (1)年齢

 70%以上が10代から30代の若年層であり、85%が男性、15%が女性となっている。

年齢(才)

男性

女性

10-14

11

5

16

15-18

19

1

20

19-24

19

4

24

25-30

19

2

20

31-40

23

3

26

40以上

6

1

8

97

17

114



  (2)出身地

 パキスタンの様々な都市、地域から選んだ。40%はパンジャブ地方、30%は北西辺境州(NWFP)地方、20%はシンド地方となっている。

地域 / 市

男性

女性

カシミール

10 1 11

イスラマバード/ラワルピンディ(パンジャブ)

9 5 14

ラホール(パンジャブ)

12 5 17
カネワル/ムルタン(パンジャブ) 11 - 11

その他(パンジャブ)

4 - 4

カラチ(シンド)

20 - 20

ペシャワル、その他(NWFP)

18 6 24
マルダン(NWFP) 13 - 13
97 17 114



  (3)教育状況

 53%が異なるレベルで教育を受けている。

教育水準

男性

女性

未就学

46

8

54

初等学校 (5-10 才)

16

1

17

中等学校 (11-13 才)

19

5

24

準高等学校 (14-15 才)

9

-

9

高等学校 (16-17  才)

2

-

2

カレッジ (18-19 才)

4

2

6

大学 (20-21 才)

2

-

2

98

16

114



  (4)家族の収入

 80%以上が低所得者層(月収1,000-5,000Rs:約2,000-10,000円)である。

収入水準(Rs)

男性

女性

1,000〜 3,000

62

10

72

3,000〜 5,000

17

3

20

10,000〜 20,000

18

4

22

97

17

114



  (5)家族の規模
 約83%が5-10人家族である。このように家族の人数(被扶養者数)が多く収入が低いと障害のある人のために必要な生活環境をととのえることが難しい。しかし、同時にそれだけ多くの人たちに車いすの重要性を伝える機会にもなる。
対象者の人数 家族規模

家族の合計数

1

2

2

3

3

9

3

4

12

15

5

75

16

6

96

22

7

154

18

8

144

12

9

108

12

10

120

6

11

66

4

12

48

1

14

14

1

16

16

114

864

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 主に、@障害についての考え方を知ること、そして、本人たちに障害の問題に気づかせること、AIL運動へ参加してもらうことを目的として質問をした。

Q1.どうして車いすが必要か?
 自立生活のため、家庭や学校や職場など地域での可能性を広げるため、教育や余暇や労働など社会生活を営むため、など様々な理由があがった。次のような回答が多くあった。

 私は障害があり、自分では動けない。車いすがあれば動けるようになる。家や大学、日常生活の移動に不可欠だ。もっと教育を受けたい。今はきょうだいがお店へ運んでくれるが、これは問題だとおもう。車いすがあれば自分でお店に行ける。自分のことは自分でやって生計を立てるために社会参加したい。みんなと同じような普通の生活がしたい。


ほかにこのような回答があった。
マラソンに参加するため(ラフォール市マラソン大会で2位になった人もいる)
所属する団体での役割を果たすため
足が動かないので車いすがないと移動できないから
今つかっている車いすは古くて壊れているから


Q2.車いすがあると、どのように生活が変わるか?
車いすのおかげで生活を楽しみ、活動的に社会参加できると確信している。多くみられた回答は次の通り。

自分の生活を自分で決められるようになる。
再び動きまわり、失っている世界を感じることができる。
旅行できるようになる
自立でき生活が一新される
ほかの人たちと同じ生活をおくることができる
心が安らぐ。移動が楽になる
よりよい人生となり、自分と同じような立場の人を支援する
自信をもつようになり他の障害者のサポートをする
親戚に会うことができ、社会活動に参加することができる
仕事ができるようになり経済活動への参加が可能になる


Q3.自分が権利意識をもつのに、車いすはどのように役立つか?
  また、自分以外の障害者を何人知っているか?
 今回の車いす配布プロジェクトで、障害があっても自分自身に権利があること、仲間の障害者の権利を理解することに大きく寄与した。

 大きくなっても私は両親の手をかりて外へ出ていた。ある日、障害者が車いすをつかっている映像をテレビでみて、自分にも必要だとおもった。
 車いすは神の恵みであり、自分の権利のためにたたかうことができる。世界へ目を向け、自分たちの権利のために役所と交渉する。権利とは何かを知り、その権利の行使を阻んでいるものが何かを指摘することに役立つ。


 自分の権利を実感することができるだろう。他に40人の障害者をしっている。皆が同じように自分たちの権利を理解できるようにしたい。そのきっかけとなる車いすをみんなのために手に入れたい。


 また、車いすがあれば仲間の障害者の権利も守ることができると考えている。

 わたしは、たくさんの障害者を知っている。障害者の権利のためにたたかい、ほかの障害者にも運動を広げていきたい。彼らを支援することができるし、みんなへわたしの思いもすぐに伝わるはずだ。
 住んでいる村には4人の障害者がいる。わたしは外に出て、車いすのおがけでどんなふうに人生がよくなったかを伝えたい。障害のある友人がたくさんいるが、いまは会いにいくことができない。車いすがあれば友人へ会いに行くことができる。あたり前の権利を実感するだろう。


Q4.車いすがあったら何をしますか?
みんなの計画は、次のようにわけられます。

a.普段の生活
普通の人生をおくる。
自立する。
仕事を効率よくすることができる。
仕事をしにお店へ行くのが楽になりもっと稼げる。
もっと勉強し、結婚もしたい。
仕事をして家族を支えたい。

b.夢、希望、目標
可能な限り勉強したい。
車いすスポーツに参加したい。
布屋さんになりたい。
コンピューターのコースを履修したい
医者になりたい。
仕事をし、学校へ行き、自立生活を楽しみたい。

c.リーダーシップと社会サービス
ほかの障害者を支援したい
自分の意志で行くところをきめたい
障害者のためにできる限りのことをしたい
ほかの障害者へ車いすをどうやったら手に入れられるか教えたい
障害者をとりまく問題を理解することができる
家から動けない障害者を支援したい。
障害者が差別を受けないように権利擁護へ取り組みたい。


Q5.仲間の障害者をどうやってサポートするか?
未来のリーダーたちは、さまざまな方法で仲間の障害者をサポートする意欲をみせた。
励まし、問題を共有する
車いすを手に入れるために、使い方を教えたり、団体へ推薦する。
自宅訪問をし、外へ目を向けてもらう
障害者問題に関する記事をかく
仕事や医療器具を提供する
違う障害の人を支援する
自立生活のトレーニングをする
生活のノウハウを伝授する
家から出てくるよう働きかける
障害者運動へ参加するよう説得する

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 4.支援基金の活用状況

アクティブ車いす(AW)は1台Rs.8500、運搬費などを含むその他の支出が約Rs. 31,000である。

地域/市

AW(台)

合計

 

カシミール

11

Rs. 93,500

 

イスラマバード/ラワルピンディ(パンジャブ)

14

Rs. 119,000

 

ラホール(パンジャブ)

17

Rs. 144,500

 

カネワル/ムルタン(パンジャブ)

11

Rs. 93,500

 

その他(パンジャブ)

4

Rs. 34,000

 

カラチ(シンド)

20

Rs. 170,000

 

ペシャワル、その他(NWFP)

24

Rs. 204,000

 

マルダン(NWFP)

13

Rs. 110,500

 

114

Rs. 969,000

 

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 5.今後の計画


 サクラGISはプロジェクト遂行により当初の目標を達成し、今後はPCILを通じて障害のある人やILセンターへ車いすを配布するという新たな計画を立てている。

 立ち上げから支援してきたセンターのために、少なくとも500台以上の車いすが必要である。各団体が地域で車いすを提供しながらIL運動を広めていくことができるよう、PCILを通じて運動の担い手たちをサポートしていきたい。

PCILの今後の計画

IL運動の理念を受け継いでいく
ILセンターを通じて政府からの機器を障害のある人へ配布する
情報交換と技術共有のために海外のILセンターとのネットワークを強化する
PCILのメインテーマに取り組む
新規立ち上げのセンターやリーダーのエンパワメント
ネットワークをいかして、全てのILセンターへ平等に情報や物品を行き渡らせる
新規センターが抱える問題の解決にむけて積極的に取り組む



パキスタン車いす財団 (PWF:Pakistan Wheelchair Foundation)
 重要な計画のひとつとしてパキスタン車いす財団(PWF)の設立がある。設立の主要な目的は、標準的な車いすを低コストで生産することだ。

 主だった製造業者より技術者たちを招待し、研修する。標準デザインをもとに車いすを作成し、ユーザーのニーズに合わせて調整していくこととなる。

毎月20-30台の車いすが各工場からPWFへ届けられ、PWFとPCILからパキスタン国内のILセンターへ送られる。そして各ILセンターから車いすを必要としている人びとへと渡す。この計画はIL運動を広めるために大変有効だろう。また車いすを必要としている人たちのニーズも満たされる。

 この計画によって、私たちの社会が草の根から変わることを期待している。そして、もたらされる全ての恩恵を障害のある人びとが享受すると確信している。
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 6.まとめ


 インタビュー調査等を通じて明らかになったのは、対象者が自分たちのニーズをよくわかっているということだ。車いすは、生活を変える基本的なものであり、差別されずに社会生活を営む権利を勝ち取るためにも必要だと考えている。

 IL運動へ参加したいという思いは多方面にわたって広がり高まっているといっても過言ではない。障害のある人びとは自分のもつ権利や生活をつくりあげていく強さに十分気づいている。また、自立生活の目標にむかう自分の役割や社会のバリアフリー化をすすめる役割についても自覚し始めている。かれらのIL運動への関心の高さは、運動への参加者数の増加にあらわれている。

 PCILを、パキスタンのILセンターを活性化させることができる唯一のネットワーク組織を強化し維持していくことは必要不可欠だ。これまでのプロジェクトで発掘したリーダーたちの思いは、わたしたちがサポートを続けていくことでより一層高まっていくだろう。運動を続けていくためには、協力し合っていくことが必要だと伝えていく。PCILのサポートこそが彼らの力をのばす道だ。



 最後になりましたが、IL運動のためのプロジェクト実施の機会をいただきありがとうございます。期待に応えられるような結果を出すことができうれしく思います。

心から感謝の念をこめて,
M.ハビブ ウル ラーマン

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