世界の介助サービスシステム
 障害福祉施策―――これを障害当事者自身がつくることはほとんどありません。当事者の視点を欠いた福祉施策のために、障害者は自立するようになるどころか、ますます依存的になるという状況があります。多くの国で、毎日の生活に介助が必要な人たちは家族に依存させられるか入居施設に収容され、地域での生活から隔離されているのです。

 今日の講演では、よくある福祉政策とはちょっと違った政策、パーソナルアシスタンス(以下、PA)制度についてお話ししたいと思います。何が違うかといいますと、この政策が日々の介助を利用する人々によって作られた、ということです。わたしたちは介助研究センター[ECEPA:ヨーロッパにおけるPA制度をよりよくするための研究機関]という研究機関をヨーロッパ8カ国それぞれにあるCILと共同で設立しました。このセンターは障害者当事者により運営され、重度障害者がパーソナルアシスタントを利用して生活をしていくためのアドボカシー活動などを行っています。
 
 この経験より、私たちは当事者の参加と自己決定がPA制度に必要不可欠だと思っています。今回私たちのPA制度をモデルに話をしますが、これはPA制度をよりよくする一つのモデルとして聞いていただきたいです。

 また、脱施設を進める上で最低しなくてはならないこととして、PA制度と住居のバリアフリー化の2つがあります。PA制度はそのうちの1つだということも強調しておきたいと思います。

PAの定義
国の施策としてのPA制度モデルの必要事項
 1.適正
 2.ニードアセスメント
 3.アピール方法
 4.現物のサービスではなく、ダイレクトペイメント
 5.支給う金額はサービス提供者に決められてはいけない
 6.基金を提供する財源は一つでなければならない
 7.法的権利としてのパーソナルアシスタントへの給付
 8.パーソナルアシスタントコストの100%保障
 9.給付をコンスタントに確保する
 10.受給者はダイレクトペイメントの利用に対して責任がある
 11.日本はこのようなパーソナルアシスタントを供給できるのか?
Q&A
PAの定義
 重度障害者が毎日生活を送る上で必要な支援には、身の回りを清潔にすること、食事、着替え、家事といったことが含まれています。そしてその他にも仕事、レジャー、コミニケーションのアシスタンス、知的、情緒的なサポートなど全て含まれています。

 「パーソナル」アシスタンスというものは、利用者本人がサービスの組み立てを最大限コントロールでき、自分のニードや能力、好みなどに応じて、サービスをカスタマイズできるということです。PAに関していうと、「誰がどのように、いつ、どこで、どんなふうに働く」といったことを自分で決められるようにならなくてはなりません。

 そして利用者は、このようなサービスを様々なサービス提供者から買うという状況でなければなりません。アシスタントを雇用し、訓練し、予定を組み、監督し、必要であれば解雇できなければなりません。簡単にいうと「パーソナルアシスタンス」は利用者がボスや消費者だ、ということです。ボスや消費者のように、いろいろと選べる自由がなくてはいけません。また、子供や、学習障害や精神障害があり、第三者からのサポートが必要な人には、そのサポートが提供されるべきです。 


  
国の施策としてのPA制度モデルの必要事項
1.適性

 PA制度を利用するための適性は、

 ―個人にアシスタンスのニードがあるかどうかを基準にしなくてはなりません。ニードの例としては、身の回りを清潔にすること、食べること、着替え、家事のように日々の生活をおくる上で必要なものや、家の外、仕事場、余暇でのアシスタンスや、適用可能であれば、コミュニケーションや一日の計画を立てること、知的・感情的サポートのようなものも含みます。

 ―障害の原因や医療的にどのように診断されたとか、年令、雇用されているかどうか、保険に入ってるかどうか、とはわけて考えるべきです。

 ―本人やその家族の収入、財産とも別にして考えるべきです。

 今あげたことは、年齢、障害をもった年齢、保険の適用範囲、ジェンダー、医学的診断、障害が原因でおこる差別をなくすためのものです。

 また、このおかげで仕事への意欲が上がったり、社会的・地理的モビリティが促進されたり、家族の顔色や状況を気にせず生活できるようになるでしょう。そして、地方自治体にかかるコストがへるので、障害のある住民に対する自治体の態度が改善されるのにも役立つのではないでしょうか。





2.ニードアセスメント

 ニードアセスメントは、

 −利用者が現在どんな生活をおくっているか、生活の状況全体についてよく考えなくてはいけません。家族や近所、地域社会に居場所が得られ、自由に参加できるようにします。そして、その結果起こる、あらゆる義務と責任も引き受けられるようにします。たとえば、家族の中で文化的に慣習となっている役割である、子どもや高齢の両親を世話することも含みます。そしてニードアセスメントにより、仕事ができ、家の外での生活を楽しみ、外出時、旅行や休暇中に活動できるようでなければなりません。

 ―生活の一部分ではなく、生活のどんな分野のニーズも含まなくてはいけません。

 ―経験豊富で専門性のあるアシスタントが必要な場合もあります。

 ―個人の一ヶ月あたりの平均利用時間数は、その本人のニードに応じた時間数とします。利用者の数だけそれぞれ違うニードがあるので、複数の利用者の時間数を合計し、人数で割って平均にはしません。

 施設では職員が入居者に共有され、月給いくらというかたちで給料が支払われていますが、アシスタントには時給で支払われています。施設で生活しない人にとっては、自分のニードとアセスメントによる時間数は直接かかわってくるものです。






3.アピール方法

 ニードアセスメントへの異議を申し立てるために、明確で、安く、効果的なアピールの方法は適切でなければいけません。必要であれば、裁判所に申し入れることもあるかと思います。





4.現物のサービスではなく、ダイレクトペイメント

 現金給付やダイレクトペイメントは、利用者の自己決定にとって不可欠です。
 利用者は自分で選んだサービスを提供者から直接購入でき、アシスタントを雇えるようになります。場合によっては自分の家族もアシスタントとして雇うことができます。

 利用者がサービス提供者へ直接現金で支払うようになると、サービス提供者は自分のサービスを選んで利用してもらうために、よりよいサービスを目指すようになります。利用者は、サービスを選択しその質を要求できる消費者になるのです。

 サービスの現物支給だと、大抵はサービス内容が限定されたり、たとえばサービス提供者に管理されてしまいます。そして、多くの場合、利用者を地理的に、たとえば、建物の中での利用などに制限させてしまいます。また、コストの効率性がいいほうを選ぶということを利用者に許しません。一方、現金給付だと、各個人が自分のニードや好みにそってPAをカスタマイズできます。そして、自分の予算の中で最高のサービスを得ようという気持ちにもなります。簡単にいうと、現物のサービス支給は利用者を依存的にしてしまうけれども、ダイレクトペイメントだと利用者を自由にするということです。






5.支給う金額はサービス提供者に決められてはいけない

 時間当たりの支給額は、各個人のニードに基づき決定されるべきです。サービス提供者がどこなのかで決めるべきではありません。地域で生活し自分でアシスタントを雇う人たちは、施設で暮らしたり地域型のサービスを受ける場合と同じ額の支給を受け取らなくてはいけません。

 今述べたことは、PAを雇い地域生活を送る人よりも施設における介助サービスの方が多く費用がかかっており、国や地方公共団体が非効率的であることを示しています。






6.基金を提供する財源は一つでなければならない
 
 国の機関が、その国におけるサービスの利用者とそのサービス内容をカバーしなくてはならなくてはなりません。サービスの受け手1人1人が、2つ以上の財源、団体や組織と交渉するようなことがあってはなりません。もし、いくつかの組織が存在するとしても、一つの団体がそれ以外の団体を保証する機関でなければならないと思います。

 そして、国の一つの中央的な組織が管理することによって、利用者にとって社会的・地理的にも使いやすくなります。これは、地方自治体に対する依存性を低くするからです。国内であれば、どこにいても変わらないサービスを利用できることになります。自治体における、障害をもつ市民への態度を改善し、社会福祉のコストを削減します。財源をいくつかに分割すると、利用者が自らの日々の生活をコントロールするのがたいへんになります。また複数の財源の提供者とトラブルのため訴訟になった場合、手続きが面倒だったりと、当事者の立場が弱くなりやすくなります。






7.法的権利としてのパーソナルアシスタントへの給付

 利用者は、財源団体の財政状況にかかわらず、パーソナルアシスタントに対する給付を受けとるための法的な権利がなくてはいけません。

 法的に権利が保障されるということは、国や地方の経済状況に依存をしなくてよくなるということです。利用者や家族が今後の計画を立てることができるようになり、脱施設化をすすめることになります。





8.パーソナルアシスタントコストの100%保障

 新しいパーソナルアシスタントを募集しやすくするには、ダイレクトペイメントによって雇用にかかる全ての費用をカバーできなくてはなりません。たとえば、賃金、残業・時間外手当、社会保険、労災保険、雇用保険、年金、休暇、出産休暇、疾病休暇、利用者によって必要と見なされる場合は訓練にかかる費用などです。そのほかにも、街でアシスタントを利用する際かかるコスト(例えば、食べ物、入場券、乗り物代)、旅行をするときアシスタントにかかるコスト(航空運賃や、ホテルの部屋、メンテナンス代)、給与管理や決算についてもカバーされるべきです。

 パーソナルアシスタンスへのダイレクトペイメントを最大限に活用するには、利用者の研修費用とピアサポート費用も含まなければいけません。

 このように直接的・間接的な賃金がカバーされさえすればよいのですが、今のままでは財源を追加しないと、公的でも民間でもどんなサービス提供者もアシスタントサービスを提供できないでしょう。






9.給付をコンスタントに確保する

 サービス給付が減ることを避け、アシスタント費用が全て保障されるよう賄えるよう、サービス給付料は毎年調整されなければいけません。





10.受給者はダイレクトペイメントの利用に対して責任がある

 サービス受給者は、資金をどのように利用しているか、定期的に説明しなければいけません。
 期間は12ヶ月ごとか、もっと長くてもよいでしょう。

 経験的に言うと、個人の状況やニーズ説明に義務がない公的給付だと、個人のニードをきちんと満たされません。この説明責任がないと、政治家や役所の職員は、利用者は安く働く高齢者や黒人や身内を雇っているんだろうと思っているようです。このような状況では、専門的な職業としてパーソナルアシスタンスをきちんとイメージできないようです。そうなると、利用者は契約も社会保険もなく、労災保険や雇用保険、年金もなく、低い賃金で働こうとする人々の善意に依存しつづけることになるでしょう。

 パーソナルアシスタンスの会計管理にたくさんお金をつかうべきではありません。一つの解決策として、利用者に、出勤表にもとづいて自分のアシスタントが働いた時間数を計算してもらうことです。

 会計の期間は少なくとも、12ヶ月ごとがよいでしょう。このくらいが自分自身の変化に富んだニーズにそって時間を節約したりつかうのに、ちょうどよい期間だと思います。






11.日本はこのようなパーソナルアシスタントを供給できるのか?

 私は、日本や他の国がPA制度を「供給できる」かどうかはわかりません。明らかに、これは政策的な優先順位の問題であり、生活において何が重要かという問題です。そして究極的にいえば、障害をもつ国民に対して国がどのような態度をとるかという問題です。どの国でも、必要なぶんだけ予算を配分すれば、必要な人すべてに良質なパーソナルアシスタンスを提供するだけの財源は十分にあると思います。けれども、国が支出をおさえようとする場合、たいてい障害者福祉の予算が最初に削られ、軍事費が最後になります。

 日本のベンチレーター使用者ネットワークが開催したベンチレーター国際シンポジウムへよせた論文でもPAについて話しています。そして、現在のスウェーデンのPA制度について説明しています。この論文では、スウェーデンの制度のコスト計算をいくつかしてみました。スウェーデンのPA制度は考えられるうちで最もよい、というわけではありませんが、ここで触れた制度の大部分が採用されています。そこで、現在スウェーデンのPA制度ではどれくらい費用がかかっているのかを見ていきましょう。

 最初にスウェーデンがどんな国かを説明したいと思います。スウェーデンは、急速な高齢化と主要な産業が無いため重大な経済問題を抱える小さな国です。近年のOECD(経済協力開発機構)によるGNP(国民総生産)の統計では、日本は世界で13番目で、スウェーデンは15番目です。このように一人当たりの額でみると、日本はスウェーデンより豊かです。

 こうした経済的な問題があるにも関わらず、スウェーデンでは人々を施設に隔離するよりも地域に根ざした施策がとられています。それでは、実際の数字をみてみましょう。

 スウェーデンでは、人口900万人中のうち、日々の生活に広範囲でニードをもつ人が12000人います。その人たちはスウェーデン社会保障基金からPA給付をうけとっています。平均すると、週あたり一人に対して94時間の給付を支払っています。現在の単価で計算すると、時間あたり27.5USDで1人あたり1週間に94時間なので、合計では16億USDになります。そのお金はアシスタントへの賃金に使われるため、この合計のうち半分以上、社会保障基金や所得税、消費税として国に戻り、8億USD弱が残ります。法律により社会保障基金の大部分は地方自治体が支払わなければならない費用を返済するので、納税者に対するPA法の費用は8億USD以下になります。

 日本の賃金や税金はおそらくスウェーデンと違っていると思うので、スウェーデンのような政策が日本でいくらくらいかかるかという計算は他の方にお任せします。

 施設から地域移行をすすめるには、始めに述べたように地域のバリアフリー住宅ももっと必要です。さて、そのコストはどれくらいかかるのでしょう?スウェーデンでは、アパートをバリアフリー化するのにかかる追加の費用は、新しいアパートを建てる費用の全体の1パーセント以下と見積もられています。追加分の費用は、誰にとっても役に立つようなエレベーターの設置や台所や浴室を広くするためのものです。

 国が財政的に豊かでなくても、重度の障害を持つ人が地域で主体的な生活を送ることができる、ということをスウェーデンは示しています。日本は、GNPでみるとスウェーデンよりも豊かなのに、どうしてそんなに多くの重度障害者が施設で暮らさなければならないのでしょう。その理由は一体何なのでしょうか。




Q&A

Q.パーソナルアシスタントサービスの使い勝手、利用の際の制限についての質問です。日本の場合、例えば働くことや泊まりを伴うような旅行の場合支援費が使えない、というような制限がある。働くことや、旅行などといったようなサービス内容についての制限は全くないのか。また制限に関連して、日本の場合には支援費になってヘルパー資格が求められるようになったけれども、パーソナルアシスタントの場合はそのような資格や制限はないのか。


A.ひとつめに関しては、スウェーデン国内で私は何の問題もなく動けます。例えば南の端から北の端に引っ越すこともできます。お金が私のほうを追っかけてくるからです。先ほど私が言いましたように財源というものは、中央の一つの財源から出ていなければいけないというのは、そうでなければ家に閉じ込められている、もしくは地域、地方自治体のコミュニティーの中に閉じ込められているのと全く同じ状況になってしまうからです。

 スウェーデンの場合、社会保障基金の財源から出ているお金に関しては、12ヶ月であればEUのほかの国にいても普通に使えますし、6ヶ月であればEU諸国以外の国でも普通に使うことができます。ですのでコスタリカの教授を尋ねに行ったときも私はお金を使うことができたのです。

 2つ目の質問に対しては、もし私が雇う側の立場であったならば、修士号を持っている人しか雇ってはいけないと言われたとしてもそれに従いたいのかどうか、ということになります。私としては、誰を雇うかということは私の決めることであり、仕事によっても決めますし、「いちいちそんなことをいわないでくれ」と答えるでしょう。「トレーニングを受けた人しか雇ってはいけない」と言われたら、それは私の能力を馬鹿にされた、侮辱しているということになります。このことに関してはこのように反論したいと思います。

これは別に教育を否定しているわけでは決してありません。実際にいろいろなことを知っている人と話すほうが楽しいということもあります。多くの人はいろいろな経験を持っていますし、特に今回の私のアシスタントで入ってくれた方は日本に来たこともありますので、私の大きな助けになってくれました。ほかにもウェブのプログラマーやウェブデザイナーをされている方を雇ったりもしました。とても役に立ってくれました。

運転免許を持っている人を雇ったこともありますが、私としては医療免許を持っている人を雇いたいとは思いません。そういう人たちは病院で教育を受けていて、私たちを患者としか見なさなかったりします。けれども私は患者ではありません。私がボスなのです。私はやはり、こうやれと言われたくはありません。私はやりたいようにやるのです。そのように、医療的な訓練を勉強したスタッフを雇うのであれば、その人を再教育しなければいけないことになるので、余計な労力がかかってしまいます。

私は雇うのに最適な人はサービス業に携わったことのある人だと思います。例えばレストランとか、靴を売った経験のある人たちです。彼らは客が何を必要としているのか、客の意見を聞くことに慣れているからです。


Q.日本の場合、国が2分の1の財源を負担して、残りを半分ずつ都道府県と地方自治体で分担するのですが、これから介護保険との統合の時に、厚労省は介護保険でできない部分は自治体で横出しや上乗せをすればよいという言い方をしています。ところが今まで一定の水準のあったところはまだよいのですが、これまで介護保険を下回っているサービスレベルでは絶対にこれ以上あがらない仕組みになっています。日本の場合地方分権で地方がやればうまく行くという迷信が大はやりなのですが、地方分権の国といわれているスウェーデンでは、実は一定時間超のパーソナルアシスタント、確か週20時間以上のサービスを使う人は、中央の財源でやることになっています。国に財源を持たしていることの意義を、そしてあるいはそれを選択されたのかどうかをお聞かせください。


A.1994年の法改革におきまして、中央政府、そして社会保険基金が週20時間以上のニーズがある人についてはそこの財源から全て出すということになりました。必要なサポート20時間の中で、このサポートというものは日常生活を普通に送る際にそれらのサポートが必要な人に対してです。

 週に20時間のサービスが必要な人は、政府からお金を得ることになっています。20時間以下の人は地方自治体からの給付ということになっています。地方自治体としては、誰かそのようなケアをする場合、あなたは20時間必要なのだから国から財源をもらってください、というようになりました。そのほうが財源が脅かされないからです。20時間以上必要であればわれわれは国からお金をとるようになるので、地方自治体のためにもなるのです。

 そして1998年には最初の20時間に関しましては、地方自治体の財源から出ていて、20時間を超える場合には国庫の方から出るように変わりました。私としては最初から国のほうからお金をもらっていまして、地方自治体からお金をまたもらうというような私自身が何かを変えなければいけないということは全くありませんでした。


Q.スウェーデンの過疎地域でもこのパーソナルアシスタントは保障されると理解してよいのでしょうか。


A.1994年からはどこに住んでいようと、20時間を超えた場合国からお金をもらえるようになります。そこで私たちに関しては、地方自治体に対して働きかける、闘わなければならないということはありません。実際に地方自治体が払わなかったとしても国が全部払ってくれるわけですから、私自身は特に何も問題を感じることはありません。


Q.日本の場合は、知的障害者はダイレクトペイメントがあっても金銭管理が難しいから、おそらく使えないのじゃないかと言われているのだけれども、知的障害を持つ人や、知的障害だけではなくても金銭管理が難しい人、そういう人がダイレクトペイメントを使う場合、スウェーデンではどのようになっていますか。うまく使えていますか。使う場合はどのような支援を受けていますか。


A.ダイレクトペイメントの受け手になった私としましては、どのようなサービスでも買うことができるということなのですね。つまり何も自ら雇用する必要は全くなく、例えばパーソナルアシスタンスの派遣する団体に加わることもできます。例えば私がやっているストックホルム自立生活協同組合なども含むわけです。そこでどのようなサービスが提供されるかというと、金銭管理とか支払などもやっているわけです。そうすることによって、そのような問題は避けられますし、私自身自ら選んで買うものもありますし、そういうところに頼む部分もあるでしょうし、もしくは地方自治体からサービスを買いたいとしたら、そこにいってサービスを買うこともできるわけです。
 そのサービスプロバイダーによって、こちらで抱えなければいけない責任というものも違うわけです。例えば地方政府からサービスを買うと、こちらは何も責任を持たずにいいという場合もあれば、例えば個人的に民間からサービスを買った場合、その人に関する全ての責任を負わなければならない、ということもあるわけです。ですので、会計管理とか経費の管理ができない状況であれば、それをやってくれる人を雇うことができるわけです。実際に知的障害者や認知障害の人を対象としたパーソナルアシスタントの組合などもあります。それに関しては、関係する親戚とか、雇っている人が一緒になって、問題を解決するという状況になっています。コミュニティーに住んでいる人たちには必ずこのようになっています。



Q.ダイレクトペイメントを進めていくときに、その中で悪い使い方をする人はいるのですか。ダイレクトペイメントを障害者本人の収入として使う人が出てこないのか。このような場合の不正について監査などのチェックはあるのでしょうか。これは障害者自身の意見ではなく、自治体との交渉を進めていくときに、彼らは必ず言うであろうけれども、ダイレクトペイメントを進めれば不正な使い方がされる、だから公費を使う限りは現物給付であるべきなのだと、支援費の交渉の時にいやというほど聞かされてきました。反論の意見などお聞かせください。



A.そうしたことは政府の人たちがよく使うことで、不正利用されないために必要な分の半分を渡そうとか、そのようなことをいう政府もあったりします。ですから先ほど私が申しましたように、社会保障基金に対して、誰が何時間働いたか、その間何をしたのかという報告書を提出したりしています。 どのようなシステムにおいても、悪い行いというものは必ずあります。例えば病気になっていないのに病欠するとか、サボるなどはどのようなシステムにおいても存在するものです。しかし1〜2%の悪い行いのためにシステム全体を否定してもいいものか、ということになります。


Q.パーソナルアシスタントサービスの時間数が最大でどれくらいまで認められているか、あるいは金額でいうと一人どれくらいの金額になるのでしょうか。


A.それに関しては上限はありません。下の最低ラインは週に20時間ですけれども、一人1日27時間とか、48時間とか、これは例えば2人雇うといったことです。このように使う人もいます。これはその人のニーズであるわけなので、そこに制限をつけるべきものでは決してありません。

施設を必要とするような状況をどんどん削除していくことは、国がやらなくてはいけないことだと思います。何かしら条件を設定することは、結局誰かを施設に収容しなければいけないという結果に陥ってしまいます。

最高でいくらかかっているかということに関しては、政府は毎年12月にどれだけ時間が必要だったのか、その内容について検討をして報告書をまとめています。また私の例をとってみると、1日18時間の介助を必要としていますが、それかける現在の時給27.5ドル、かける30日もしくは31日が、1月の総出費となっています。

その予算の中でどういうかたちで給料を払うかは、私の判断です。実際に労働組合とかを通じたものもありますので、そういったものはちゃんと払わなくてはならないものになっています。その予算内、そして労働法に違反しない範囲内では、いくら給料を払うのかということは私の自由になっています。

あまり払うお金を安くしようとは思っていません。そうしますと、やはりいいアシスタントをめぐる競争に負けてしまいますから。けれどもあまりにも高くしてしまうと、例えば私が旅行する時のアシスタンツとか、ほかのことがでてきた場合に払えなくなってしまいます。

 私の自分自身の興味とか利益の中で幾らと決めるのは私の判断になっています。ですので私自身が判断をする為に、誰かに我慢を強いたりというようなことはしたくありません。


Q.日本の場合、どうしても制度通りに支援費の時間数が認められない場合があります。その場合決定された時間を伸ばして使うというか、1日10時間決定されているけれども、16時間に延ばしたり、というような使われ方がされている。この場合どうしても賃金を安くしたり、社会保険を払えないというようなことが当然出てくると思うのですが、24時間自分のニードを満たすことができずに、灰色の使われ方がされるということはないだろうか。


A.それはもうサバイバルの状況でして、そのようになった場合選択の余地はないわけです。そのようなシステムにおきましては、常に私のために働きたい人に頼るしかない。つまりボランティアをしたいという人に頼らなくてはならなくなってしまいます。そうすると、みなさんが雇ったアシスタントから、敬意をもって接せられることが難しくなったりします。そうなると生きることはできるのですが、仕事もできない、旅行もできないということになってしまうでしょう。








講師
 アドルフ・D・ラツカ 氏

  ストックホルム自立生活協同組合
司会
   尾上 浩二 氏
     DPI日本会議
2004年6月24日 新宿NSビル