12月15日交渉報告

■突然出てきた介護保険統合問題・「グランドデザイン」

 連続行動の最終、15日午前からは厚生労働省との交渉があった。去る10月20日の全国大行動の際に、「グランドデザイン」に対する要望を行ったが、厚労省からの出席者からは十分な説明が得られなかった。今回の交渉は、そのことを受けて設定された。

 10月12日の障害者部会で「グランドデザイン」発表後も、4回程、障害者部会が開催されたが、ほとんど事務局資料の説明と簡単なやりとりに終わっているのが現状である。

 「私たち当事者抜きに決めさせてはならない」ということを総括的な要求とした上で、今回の交渉では、1.認定審査会や基準づくり等支給決定について、2.移動介護について、3.応益負担や医療助成等の負担の見直しについての3点に絞って交渉を行った。

 厚労省からは、障害福祉企画課の宮本課長補佐、柏木課長補佐、大塚専門官、精神保健福祉課から内田係長等が出席した。この間、係長級での対応にとどまっていたが、今回は課長補佐級が出席してのやりとりとなった。

 最初に、司会の楠さんから、「介護保険との統合問題、「グランドデザイン」のいずれも突然出てきた感がある。介護保険との統合問題については、2006年4月からの実施は見送られるとも報じられているが、どう考えているか」との提起があった。これに対して、厚労省側は、「統合問題については政治の場で議論頂くことで、まだ結論は出ていないと考えている」との回答があった。さらに、「介護保険部会の報道等を見る限りは、2006年4月からの実施は客観的には先送りになったのではないか」と重ねて確認すると、「2006年4月からの実施は難しい状況だが、与野党含めた色々な議論の中で決まっていく」との回答があった。

 さらに、「グランドデザイン」について、厚労省側からは「1.在宅サービスを義務的経化を図り、そのため応益負担、支給決定の見直しを行う。2.三障害バラバラだったのを障害者サービス法で統合していく。3.実施主体を市町村に一元化していく、という三つの柱がある」との説明があった。

 だが、今年7月まで開催されていた「障害者(児)の地域生活支援の在り方検討会」でも、「グランドデザイン」で示されているような内容は議論されてこなかったことを指摘した。支援費でも検討や実施準備が十分でなく財源付則の問題が生じたのに、これでは二の舞になる、議論をじっくり行った上で法改正をすべきだとの提起をした。応益負担や認定審査会など支援費制度の根幹に関わる事項が含まれており、「在り方検討会」の再開を求めたが、「現在のところ、検討会の再開は考えていない」と頑なな姿勢は崩さなかった。

■「審査会が決めるのは障害程度区分、市町村はそれを勘案事項の一つに支給決定」

 認定審査会について、厚労省からは「障害程度区分を決定してもらう。画一的と言われるが、客観的な区分なので参考になると考えている」との説明があった。

 これまでは障害者の場合はニーズの多様さに着目する必要性を厚労省も認めてきたではないかとの提起に対して、「障害程度とニーズは一致しない。支給決定手続きとしては、勘案事項の一つとして障害程度区分があり、それで決定するのではない。障害程度区分は認定審査会で行い、支給決定は市町村で行うと、今のところ考えている」との回答があった。

 認定審査会の判定事項は、市町村が支給決定する際の勘案事項の一つとの説明が、今回あった点が、これまでの部会での事務局説明に比べて、若干異なる点とも言える。もちろん、ニュアンスの差程度とも言えるし、何よりも障害区分に連動した「標準的な費用額」が国庫補助基準が設定されることになるので、障害程度区分による縛りは強くなることには変わりはないので、過大評価は禁物であろう。だが、こうした認定審査会の機能や権限、構成等の具体的な在り方については何一つ明らかにならないまま、法案作成が進められることが問題なのだ。こうした点について、さらに交渉で明らかにしていくとともに、障害者団体が参加する検討会を求めていく必要がある。

 また、このやりとりの中で、現行のグループホームについては、障害程度区分に対応して、ケアホーム、グループホームと分かれていく点についても問題になった。現在、グループホーム入居している当事者からは、「今は重度も軽度も関係なく暮らしている。このままの生活を続けさせて下さい。今の生活にやっと落ち着いたのに、制度が変わって引っ越ししなければならなくなると、また不安定になってしまう」との提起があった。

 それに対して、厚労省からは「施設も機能で再編し、個々のニーズに対応するようになっている」との回答があったが、一定の目的をもって入所している施設と地域生活とを一緒くたにした議論である。

■説得力のない移動介護の地域生活支援事業化

 続く、移動介護については、北海道、静岡、大阪、沖縄の具体的な実情を提起した。いずれも、24時間介護が必要な障害者に対しても必要な時間数が認められていない地域である。そうした地域では、日常生活支援に加えて、足りない部分を移動介護で埋めているのが実情であり、この移動介護が日常生活支援と同じ単価になったり、ましてや地域生活支援事業になれば、とても生活ができなくなるとの提起があった。

 ピープルファーストからは、「移動介護が無くなると、全国大会や会議に参加できなくなる。地域でもお金がかかり、暗い気持ちになってしまう。施設から地域に出すどころか、逆に、施設に戻らなくければならなくなる」との提起があった。

 また、知的障害者にとっては、移動介護は単なる外出ではなく、色々な所に出かけて色々な場面に出会って当事者が考え、選択する幅を広げていく支援だ。そうした生活の幅を広げ、自己決定をしていく支援を奪うことになるということが分かっているかとの提起があった。

 さらに、「グランドデザイン」では移動介護を地域生活支援事業とすることが原則とされている。これと同様な制度だったのが1980年代のガイドヘルプである。1988年にホームヘルプ予算に組み込まれるまでは、社会参加促進事業の中にガイドヘルプがあった。その時代には、外出の目的に「社会生活上不可欠なものに限る」とされており、成人式や冠婚葬祭等の行政が認める範囲に限られていた。その時代の要綱資料等も示して、そうした時代に戻ることを理解しているかと問いかけた。

 これらの提起に対して、厚労省は、「義務的経費化になると、基準を設けて一月何時間という支給決定をしていくことになる。外出を一月何時間までと決めることは難しいので、個別給付から外す。市町村で柔軟にやってもらう」と回答。これまで、支援費以前は市町村でやっていて時間制限(9時〜17時)や市内から外に出てはいけない等の制限があった、市町村に戻して再び使いづらくなるとの提起に対しても、同様の回答に終始した。

 こちかららは、今日データーで示した現状をふまえた検討の提起を引き続き行うことを求めた。

■「他制度との整合性」を繰り返すだけの負担見直し

 負担の見直しについては、大阪精神医療人権医療センターの当事者から、「今回、精神の通院公費助成(32条助成)の見直しがあげられている。その理由に、一般の慢性疾患と同様になってきたということがあげられている。しかし、まだまだ精神障害に対する偏見・差別が厳しい。それをそのままにして、公費助成を見直すのは問題である。特に、世帯単位での収入を基準にしており、これまでは家族に気兼ねなく通院できたのが、そうでなくなる。自分の場合だと、3年後の経過措置後には一挙に1万5千円にまで負担が上がる。白紙撤回してほしい」との提起があった。

 それに対して、厚労省からは「精神障害者の検討会では、精神疾患は誰もがなりうる病気という理解を広めていくとなっている。そうした疾病観の変化を求めるのに、負担だけは特別になしにしてほしいというのはどうか」と、きわめて乱暴な説明がなされた。

 精神の当事者から、「現在、糖尿病等の病気と精神障害は同じように認識されているわけではない。社会の中で障害をもって生きることのしんどさがある。それが変わることを待ってもらわないとダメだ。閉じ込められてきた歴史があることをふまえてほしい」との提起があった。

 さらに、福祉サービスの応益負担についても、前提である所得保障が確立していないこと、そして世帯単位の収入に基づく上限設定額となっており、本人がサービスを利用したくても、家族がお金を払ってまでサービスを使うことを認めないということが起きてしまうという点を提起した。

 だが、他の一般制度との整合性を繰り返すだけで、特に、この負担見直しについては頑なな姿勢が際立った。

 私たち側からは、障害者の場合、「親兄弟から独立が自立への第一歩」ということで進めてきた歴史から、この世帯単位という考え方は非常に問題であることを重ねて提起した。

 最後に、厚労省の予定では2月に国会上程となっているが、その前、来年1月中に再度の交渉をすることを確認して交渉を終えた。

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 以上のように、いずれの点も基本的に硬い姿勢を崩さなかったが、特に、負担見直しについては、極めて頑なな回答を繰り返した。これは、来年度予算に関連して、医療助成については2005年10月、応益負担については2006年1月からの実施を厚労省は予定していることが背景にあると言えよう。

 一方で、認定審査会の機能・権限と市町村の支給決定の関係や、移動介護については、まだ検討途中であることを伺わせるような回答も見られた。

 今後も、さらに継続した交渉や行動を繰り広げていく中で、「グランドデザイン」の持っている問題点を、社会的に明らかにしていくことが求められている。

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